金曜日はモンの民族衣装を着ていく日

モン(Hmong)族

タイの中でタイ人として生きていくモン

 人はみな、自分とは違うものを遠ざけようとするが、自分と違うと判断するその材料は、見た目であったり、行動であったり、言葉だったりする。言葉の場合、ちょっと訛りがあるな、と思うと、そこからいろいろなことがわかったり、推察したりする。

 さまざまな民族出身の人たちは、少なからずこれまでに、心ない言動に心痛めたことがあっただろう。
 タイのモン(Hmong)族の人たちは、今は子どもの頃からタイ人教師によるタイ語での学校教育を受けていたりするので、タイ語の読み書きはもちろん、普段の生活の中で不自由することはあまりなくなってきているかもしれない。

 小学校にあがる前まで、難民キャンプで過ごしたモンの女性は、難民キャンプを出たあと、タイ北部の山の学校へ通うようになり、そこでタイ人の先生からタイ語で授業を受け、タイ語を身に付けたという。
 タイの山の学校では、政府から派遣されたタイ人の先生が、住み込みで村の先生をして、子どもたちにタイ語とタイの文化を教えていた。

 タイには、ラオスなど隣国からタイへ渡ってきたモン(Hmong)族の人たちだけでなく、すでに何代にもわたって、タイで生活しているモンの人たちも多い。それでも、今の若者世代であっても、幼少期、つらい経験をしているという話もよく聞く。

 ある山岳(少数)民族の子どもたちを支援する学生寮がある場所は、民族出身の人たちが生活していない地域であった。
 そのため、通う学校には、民族出身の子どもは、その寮の子どもたちだけしかおらず、かなり厳しい学生生活を送ったという話を涙ながらに聞かせてもらったことがある。

 タイ語には不自由しなくても、ある程度の年齢になってからタイへきたモン(Hmong)族の人たちの場合などは、しゃべるとその訛りでわかってしまうことも多い。
 そういうことが、進学だったり、就職だったり、日常の生活でも、不利になったり、屈辱を受けたりすることも、まだあるようである。
 タイ国内での就職を望みながらも、なかなか仕事が決まらず、韓国などへの出稼ぎを繰り返さざるを得ない人たちは、今でも多い。

 そんなこともあり、自分の子どもたちには、生まれた時からタイ語の環境で育て、家でもタイ語だけで過ごすようにしているモン(Hmong)の家族もいると聞く。
 しかしながら、言葉というのは、その人の根本にあるもので、“モンらしさ”をつくりあげているものであり、現在でも、モンの伝統文化を守っている家では、タイ語は学校でつかうので、普段の生活ではモンの慣習にのっとり、家ではモン語しかつかわない、という家もまだまだ多くある。

金曜日にはモンのプリーツスカートを履いて

 タイの学校では、金曜日は民族衣装を着ていく日、と決まっている。生徒だけでなく学校の先生、役所や会社などでも、金曜日には民族衣装を着るところもあるという。

 朝、幼稚園のお迎えの乗り合いバスに間に合わず、お母さんのバイクの後ろに乗って送ってもらう彼女(トップ写真)も、その日は金曜日、ラオスからのお土産にプレゼントしたお気に入りのモンのプリーツスカートを履いて出かけて行った。

 以前は、山の方では、タイ政府が指定する制服を買えないことも多かったので、民族衣装を着て学校に行っていたし、厳密なものではなかったが、最近はほとんどの学校で民族衣装の日を設けているという。
 こうしたことが、本当の意味でのお互いの理解につながるかどうかということは、すぐには答えの出ないことではあるが、これは、タイの山岳(少数)民族の人たちにとっては、タイ国民として受け入れられる(られた)、という重要な意味をあらわすのかもしれない。

 このコロナ禍の影響で、タイでは、フリーランスや定期収入のない人で、この時期の収入減を証明する書類を提出することができれば、オンラインで月に5,000バーツ、日本円で17,000円ほど(6/10現在)の支給を受けることができるという。

 これはもちろん、モン(Hmong)族や他の民族の人たちも対象であるが、どこの国でも聞かれるように、オンラインであることや、収入減となったことを証明する書類の準備が難しい、といった問題があるようだが、幸いにも、『織り人(Orijin)』のつくり手さんの何人かは、申請が通ったと聞き、少し安心した。

 今、私自身、イベントやデパートでの販売がすべて中止となり、売り上げもなかなか厳しく、また、タイの緊急事態宣言が続く中、タイ行きの飛行機も運休となり、タイに行けない状態が続いている。

 それでも、民族出身の人たちの刺繍やアップリケの手しごとの技術を、日本の人たちにも認めてもらうことで、自らの民族文化に誇りをもって、未来への夢をみることができるようになることを目指して、今の活動を始めたのであるから、これからもずっと、今の活動を続けていかなくてはならないと思っている。

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