アップリケとは
モン(Hmong)族の女性たちは、細かなクロスステッチ刺繍を得意としていますが、その他にもアップリケの技術にもたけています。
“アップリケ”とは、ラテン語の「貼る」「付ける」という意味が語源で、土台となる布の上に、小さな布を縫いつけることで模様をつくっていくものです。
この“アップリケ”には、もう一つの方法があり、それは“リバースアップリケ”と呼ばれ、“通常のアップリケ”とは別の技法として、わけて考えられています。
モン族のリバースアップリケ
“リバースアップリケ”は、“通常のアップリケ”のように小さな布を下の布に縫い付けるのではなく、デザインを描いて切り込みを入れた布を、土台となる布の上に重ねて置き、布の切り端を内側に小さく折り込み、土台となる下の布に細かくまつり縫いしていきます。
そうるすことで、下の布の色があらわれ、文様が浮き上がってくるという技法です。
通常は、2~3枚程度の布を重ねて作りますが、何枚もの布を重ね、いろいろな色が複雑に重なり合った文様を作り出すこともできます。
この”リバースアップリケ”の技法は、モン(Hmong)族の人たちが得意とするものですが、他にも、「モラ」と呼ばれる中南米サンブラス諸島のクーナ族によるものも有名で、幾重にも布を重ねて、色鮮やかに、人や動物を表現たクーナ族の民族性が感じられる構図が多くあり、日本人の間でも好まれています。
“アップリケ”と“リバースアップリケ”は、布の上に布を重ねているため、一見同じように見えるものもありますが、技術的に異なるもので、“アップリケ”ができれば、“リバースアップリケ”ができるというわけではないようです。
例えば、モン(Hmong)族の人たちの民族衣装の襟飾りの多くは、細かなアップリケの技法が用いられていることが多く、このアップリケの襟飾りで有名なのは「白モン族」や「青(緑)モン族」で、『織り人』のアップリケを作ってくれているモンのお母さんは、「縞モン族」出身なので、“リバースアップリケ”の達人ではありますが、“アップリケ”はできないのだそうです。
“アップリケ”そのものの歴史は古く、もともとは、衣類のほつれを直したり、補強する意味合いであったものが、今では装飾的価値が高まり、世界的にも広範囲で見られる技法です。
日本でも、古くから「切付け」「切嵌(きりばめ)」と呼ばれる”アップリケ“と同様の技法があり、これもまた、着物の補強と共に、模様付けとして大きな価値を持つようになっていきました。
モン(Hmong)族の”アップリケ”も、その細かく繊細な手しごとに注目が集まり、観光客向けのマーケットなどでも、”アップリケ”が使われた襟部分だけが高値で売られていたりします。
難民キャンプ内で作られ発展したモン族の”リバースアップリケ”
現在、タイやラオス、ベトナムなどのマーケットでよく見かけるバッグやポーチ、ベットカバーなどに用いられている”モン族のリバースアップリケ”の歴史は、それほど長くはありません。
もともとモン(Hmong)族は、“アップリケ”や“刺繍”などの手しごと文化に優れた民族でしたが、ラオス難民が流出した1970年代後半から80年代にかけ、タイ国内に設置された難民キャンプ内で、海外からのNGOなどの支援により、販売用に作られ、売られるようになったのが、“モン族のリバースアップリケ”だったのです。
自分自身や家族のためでもなく、現金収入を得るための手段として作られるようになった”リバースアップリケ”は、”商品(売り物)”として改良され発展し、“モン族の得意なリバースアップリケ”として、世界的にも有名になっていくことになります。
『織り人(Orijin)』の“リバースアップリケ”を作ってくださっているモンのお母さんも、ラオスからの難民のひとりでした。
もともと、手しごとの才能に恵まれていましたが、タイの難民キャンプでの生活の中で、“リバースアップリケの達人”としての技術を、さらに身につけていったのです。