ラオスに残ったモン、タイに逃れたモン、アメリカに渡ったモン

モン(Hmong)族

ディアスポラの民  モン(Hmong)

「ディアスポラ(Diaspora)」、語源はギリシャ語の“広める、撒く、散らす”、さまざまな異なる方向に種を撒き散らす、という意味で、もともとはユダヤ人の離散を意味していた。
しかしその言葉が、今は世界中に散らばる「モン(Hmong)族」をあらわす言葉となっている。
*「ディアスポラの民 モン 時空を超える絆」 吉川太惠子氏著より

モン(Hmong)族の人たちの中には、インドシナ戦争に翻弄され、ラオスからタイの難民キャンプを経て、アメリカやフランス、オーストラリアなど第三国へ移住していった人たちが数多くいる。
元々、中国中南部を起源とするモン族の人たちは、長い歴史の中で徐々に南下していき、現在、ラオス、タイ、ベトナムなど東南アジア大陸部にも多く生活している。

先日、アメリカでの暴動を伝えるテレビ番組の中で、モン(Hmong)族のことが話題にあがっていて驚いた。
こうした報道の内容がどのような影響をもたらすのか、と心配になるが、他のすべてのニュースや報道も同じで、受け取る側に正しく理解しようとする気持ちや、もともと持っている関連する知識や関心がなければ、物事はきちんとした形では伝わらない、ということを痛感する。

私自身は、モン(Hmong)族の人たちのことを知りたい、といつもアンテナをはっているけれど、他のニュースや報道についてはどうだろうか?
正しく理解できているのだろうか?
テレビで伝えられている内容だけで判断してはいないだろうか?

ラオス人のモン、タイ人のモン、アメリカ人のモン

1980年代、タイの難民キャンプの中で過ごし、その後はタイ国民となったモン(Hmong)のおかあさんが、タイへの逃避以来はじめてラオスにいる親戚を訪ねる旅に同行させてもらった時のこと、その親戚や子どもたちがアメリカから送ってくれた写真を引き出しから取り出してきて、彼らのアメリカでの様子をいろいろと聞かせてくれたことがある。

同じモン(Hmong)の家族、親戚の間でも、ラオスへ残った人、タイに避難した人、アメリカへ渡った人…、その時のそれぞれの決断があり、これまで一緒に暮らしていたモンの家族が、今は世界中に散らばっているという話はめずらしいことではない。
それでも、その時に、どんな選択をしたかに関わらず、それぞれが今暮らす場所(国)で、自分たちが求めるようにだけでなく、まわりから、その国から求められるように一生懸命生きていることに変わりはない。

アメリカで初めての国会議員になったというモン女性もいる。今回の報道のように国を守る警察官になったモン男性もいる。
自分たちを受け入れてくれた国への恩義と、いざという時に助けてくれる“自分の国”というものを求めて、みな再定住した場所で懸命に生きてきた結果である。

モンの人たちは”自分の国”をもったことがない。
自分たちの国を求め、長い歴史の間、常に大国と戦ってきたけれども、これまで自分たちの国をもつことはできず、今は国籍上では、ラオス人だったり、タイ人だったり、アメリカ人だったりするわけである。

まずは関心をもち正しく知ることから

今回の報道をきっかけに、モン(Hmong)族の人たちのことに関心を持つ人も増えるかもしれない。
そうした時に、テレビの報道だけで結論づけるのではなく、問題となっていることの歴史的背景や現状について、本や新聞、可能な限り得られる情報から、自分自身に、客観的で正しい補足情報を与えてあげることは大事なことだろう。

ラオス難民として、アメリカやフランスなどへ渡り、“ディアスポラの民”となったモン(Hmong)族の人たちのことが、現地調査を基にまとめられている「ディアスポラの民 モン 時空を超える絆」や、フィクションであるとしながらもモン族の歴史的背景を詳細に書き綴った「メコンに死す」、どちらも私自身、いつも参考にさせていただいている。

自分が興味、関心のあることは、基礎知識があり、よく知っているわけで、テレビや報道の中で、自分自身がもっている情報と少しでも異なった部分があれば、”あれ?”と一瞬立ち止まることができるが、まったくこれまで知らなかったことだった場合、立ち止まることすらできないだろう。
だからこそ、まず日頃から、偏らず広くあらゆる方向にアンテナをはっておけるようにすることが大切なのかなと思う。

『織り人(Orijin)』の活動を知っていただくことで、関心をもっていだけることが新たにひとつ、増えるきっかけとなりましたら幸いです。

アメリカに渡った親戚が作ったアップリケのベットカバー。
当時、難民キャンプでも作られ、欧米諸国によく売れた。

注)ミャンマー(ビルマ)のモン(Mon)と混同されることが多いため、本文中、モン(Hmong)という表記をしています。

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