ベトナム黒モン族の人たちの麻の民族衣装
ベトナム北部は、モン(Hmong)族の中でも黒モン族と呼ばれる人たちが多く暮らしています。
黒モン族の人たちの民族衣装は、青モン族や花モン族など他のモン族の人たちのようにカラフルなものではなく、全身黒色でとても落ち着いた感じです。それでも、襟や袖口、腰布には豪華な刺繍がほどこされ、黒い布の隙間から、ちらりと見える色あざやかな刺繍がとてもおしゃれです。
その黒い衣装の丈の長いベストに使われているのが、麻布です。藍染めは、1~2回染めただけでは、淡い藍色ですが、藍で何度も何度も繰り返し染めることによって、黒に近い濃紺の藍色の布をつくり出します。
いつでもどこでも市場でも
ベトナムの黒モン(Hmong)族の村を訪れたとき、あちこちで麻糸を手に巻き付けている人たちを見かけました。
その村は、周辺の山岳民族の村へトレッキングするなどの目的で、欧米からの観光客が増え始めた頃で、道端や市場などで、観光客向けに、モン族の伝統的な刺繍やアップリケの布をつかったベットカバーやバッグ、小物などが売られるようになってきていました。(上の写真)
麻の刈り入れが終わって、十分に乾かした麻の茎から繊維を取り出しその繊維を撚り合わせて長い糸をつくっていくのは、とても時間のかかる作業のため、売り子をしている間も(上の写真)、市場で買い物をする間も(下の写真)、少しの時間も無駄にしないよう、麻糸を手に巻いているのです。
子どもたちも歩きながら・・・
村はずれの黒モン(Hmong)族の集落へ続く道を歩いていると、麻糸を手に巻いた若い女の子たちと何度かすれ違いました。友だちと遊びに行く間も、学校へ向かう間も、麻糸を撚り合わせながら歩いているのです。
撚り合わせ方を見せてもらいましたが、手元を見ることなく、素早く、上手につなぎ合わせています。腕に麻糸の束をかけ、左手に撚り合わせた糸を巻きつけながら、くるくるっと器用に麻糸をつなぎ合わせていきます。
撚り合わせる前の麻糸の端の部分の真ん中を割き、その両側を指で転がし撚りをかけ、その間に次の麻糸を入れて、さらに撚りをかけることでつなぎ合わせていくのです。
見ているととても簡単そうに見えるのですが、これがなかなかコツがいり、うまく撚りがかかっていないと、ちょっと引っ張っただけで抜けてしまうのです。
モン(Hmong)族の麻布のこれから
この時期(2005年4月)は、周辺のどの集落を訪ねても、どこでも麻糸づくりをしている様子を見ることができ、とても興味深い季節でした。
その後、数年後に訪れた時には、さらに観光地化が進み、村の中心には、たくさんのゲストハウスやお店ができ、世界各国からの観光客であふれていました。そうなると、日常の平凡な風景を見ることは難しくなっていき、地元の村の人たちが着ている民族衣装も、観光客を相手に物売りをする時のユニフォームのようになっていってしまいます。
それからさらに数年が経った今では、黒モン(Hmong)族の伝統的な麻布の民族衣装も、安価な綿や化繊の布でつくられたものに変わっていき、このあちこちで見られた麻糸づくりの風景も、もう見ることはできないのかもしれません…。
*写真はすべて筆者撮影(2005年4月撮影)
ベトナム北部黒モン(Hmong)族の村にて。
関連書籍はこちら
*Amazon商品ページにリンクします。