モンの人たちを守る人型のアップリケ文様

伝統文化

 モン(Hmong)族の人たちは、”木、山、月など自然界のすべての現象や事物には、目に見えない聖なるもの(霊魂)が宿る”という自然の精霊を崇拝する「アニミズム(精霊崇拝)」を基本とし、呪術的な祭祀、儀礼を執りしきる宗教的職能者であるシャーマン(呪術師)を中心とした信仰をもっている。

縞モンの女性の上着。そでの縞のラインが特徴。

 人の形をしたアップリケ(マークイェングmaj zeej)は、ある縞モンの女性の上着の裏側、首元あたりに縫い付けられていたもの。
 モン(Hmong)族の人たちは、魂が肉体と一体となっておらず、正しい位置にないと病気になると考えている。
 具合が悪くなると、ジーネーン(Txiv neeb)と呼ばれるシャーマン(呪術者)が、原因が何なのかを見極め、必要とあらば、魂を正しい場所へ呼び戻すための儀式をおこない、その後に、この人型のアップリケを縫い付けるのだそう。

 儀式のあとに、布を人型に切り、上着の裏側に縫い付けるのは、親族の役目であり、その娘か義理の娘がすることが多いという。

 ラオスの観光客のためのマーケットで、この人型のアップリケのバッグやポーチなどを見かけたことがある方もいるかもしれないが、そういうことが許されるのかどうかは、わからないと言っていた。
 本来ならば、あまりよいことではないと思われるが、やはりお守り的な意味合いもあり販売されているようである。

 上着後ろの腰の部分の「✕」のアップリケは、特に決まった呼び名はないようであるが、悪霊や邪悪なものに見つからないように、縫い付けるのだという。

 コロナ禍の今、例えば、感染しないように…、というような意味合いでも付けたりするのか、と聞いてみたところ、そういうのとはちょっと違うようで、もし誰かが大勢の人に災い(禍)をもたらしているような場合、ジーネーン(呪術師)が必要と判断したら、儀式をおこない、縫い付けることもあるという。
 しかし、いわゆるお守りのように、誰でもが自分の意志で身に付けられるというものではなく、まずジーネーンがどうするべきかを判断するということのようである。

 普通は、ジーネーン(呪術師)が儀式をおこなってから縫い付けるのであるが、紙で人型を切り、枕の下に置いておくという人もいるという。
そうすることで、魂がいつも肉体とともにいることができるようになるという。

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