世界中のモン族の人たちがひとつになった日

モン(Hmong)族

 3月の新月*から7日目の日(月齢7)、世界中のモン(Hmong)族の人たちが家の出入り口に、「ジャイコームア(Txaij qhov muag)」を掲げ、その日一日、一歩も部屋から出ることなく、じっと家の中で過ごしたといいます。

 「ジャイコームア(Txaij qhov muag)」は、モン(Hmong)語で写真のような六角形の竹で編んだ飾りのことです。
 これは、邪気が入り込み、禍(わざわい)がもたらされないように、家や村の入口、家の中のいろいろな出入り口、台所などに置かれるもので、割いた竹を編んで手づくりされます。

 そこに取り付けられている木の枝と、青モン(Hmong)族の藍染めのスカートの布の切れ端は、悪いものを追い払う意味があるといいます。

*「新月」とは、月と太陽がほぼ同じ方向にあり、太陽の光が当たっている側は地球から見えない状態(月が見えない状態)の時をいい、月齢0となる。

 モン(Hmong)族は、”木や岩、山や水、太陽や月など自然界のすべての現象や事物には、目に見えない聖なるもの(霊魂)が宿る”という自然の精霊を崇拝する「アニミズム(精霊崇拝)」を基本とし、精霊と交流することによって、神託や預言を伝達したり、霊魂と接触し、交流をおこなうことで呪術的な祭祀、儀礼を執りしきる宗教的職能者であるシャーマン(呪術師)を中心とした信仰をもっています。

 近年では、山岳(少数)民族の人たちの中には、さまざまな事情により、キリスト教へ改宗した人たちも多くいますが、自らの民族文化に誇りを持ち、今もなお、陰暦(月の満ち欠けを基にした暦)に従い、ジーネーン(Txiv neeb)と呼ばれるシャーマンを中心にした社会生活を送っているモン族の人たちが、世界中にたくさんいるのです。

モン族の文化

台所へ向かう入り口に立てられた「ジャイコームア」。
木の枝と藍染めのスカートの切れ端が取り付けられている。

 世界中がコロナウイルスと戦っていた3月30日、タイ、ラオス、ベトナム、中国、アメリカ、ヨーロッパなど世界中に広がるモン族の人たちは、シャーマンから、その日一日、部屋から一歩も外に出てはいけないというメッセージを受け取り、禍(わざわい)を招かないよう…、そして、今現在の自然の脅威に打ち勝つために…、世界中のモン族の人たちが祈りを捧げた一日になったのです。

 モン(Hmong)族の家では、台所が別棟になっていることも多いですが、その日一日は、外に出ることができず、台所へご飯を食べに行くこともできないので、簡単に食べられるものを部屋に持ち込み、一日を過ごしたといいます。
 でも、小さな子どもたちは、耐えきれず、夕方5時過ぎに外に出てしまったそうですが…。

 家の出入り口に立てた竹飾り「ジャイコームア(Txaij qhov muag)」は、その日一日、またはその後2、3日ほどで取り除かれ、そのあとは、家の扉や敷地内のさまざまな出入口に取り付けておくことが多いようです。

モンの家の正面玄関の前に立てられた「ジャイコームア(Txaij qhov muag)」。1~3日ほどで取り除かれる。

 その日以降、FacebookやInstagramなどでも、この竹飾りを玄関や門のところに掲げている写真が投稿されているのをよく見かけました。
それは、タイだけでなく、ラオスだったり、アメリカだったり…、本当に世界中のモン(Hmong)族の人たちが、同じ想いを共有していた日だったのだな、と感じました。

 飛行機も飛ばず、国境が封鎖されてしまった世界の中でも、モン(Hmong)族としてのつながりは切り離せない…、本当の意味でのボーダレスな世界を生きるモン族の人たちの精神文化の強さを改めて感じた出来事でした。

 この話を聞いた時に、どうやってシャーマンからのメッセージを世界中のモン(Hmong)の人たちが、同時に受け取ることができたのだろうかと思ったのですが、そこは現代らしく、YouTubeの”モンのニュース”というので知ることができるのだそうです。

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