モン族の名前(姓)とクラン制度

モン(Hmong)族

モン族の名前(姓)について

 モン(Hmong)族のお父さんとお母さんと一緒に、ラオスにいる親戚を訪ねる旅をした時のこと、途中で出逢った人が、”この人が親戚の人なのかしら?!”と思う瞬間が幾度もありました。

 まるで古くからの知り合いのように、”お~、久しぶりだな!!”というように肩を抱き合い、握手を交わし、昔話に花を咲かせているような様子なのです。

 でも、すぐにその場を去り、後になり、ただ道を尋ねただけだったと知り、”えっ?!知り合いでもなかったの?!”と何度も不思議に思ったものでした。

 その訳は、モン(Hmong)族の「クラン」という文化的背景があります。
 「クラン」とは、広い意味では、日本人の「苗字(姓)」にあたるものですが、その意味合いは全く異なるものです。

「クラン」は「セン(Seng)」と呼ばれ、その数は18クラン(だけ)といわれており、すべての(タイだけでなくラオスやベトナム、中国なども含めて)モン(Hmong)族の人たちは、この18クランのどれかの姓を名乗っていることになります。
1)チャン(Chang) 2)チュー(Chue) 3)チェン(Cheng/Chieng) 4)ファン(Fang) 5)ハ-(Her) 6)ハン(Hang) 7)カン(Khang) 8)コン(Kong) 9)クー(Kue) 10)リー(Lee) 11)ロー(Lor/Lo) 12)モア(Moua) 13)パ(Pha) 14)タオ(Thao/Thor) 15)ヴァン(Vang) 16)ヴゥー(Vue) 17)ション(Xiong) 18)ヤング(Yang)

モン(Hmong)族の名前

モン族の人たちにとっての同姓(同クラン)とは…

 写真の男性二人が出逢った時も、昔からの友だちのように見えたのですが、実はその時に会ったばかりだったのです。

 子どもの頃に、ラオスから難民としてタイへ逃れてきたお父さん、お母さんが、長い年月を経て、ラオスの親戚の人たちと再び再会する瞬間を逃してはいけないと、常にカメラを構えていた私は、後になり、”それではあの時、私は誰の写真を撮ったのだろうか…。”と何度も思ったものでした。

 モン(Hmong)族の人たちは、日本人のように、”同じ釜の飯を食う”という感覚も持っており、寝食を共にすることにより、家族のような親しい間柄になるというところもある反面、モン族の人たちにとっては、同じクラン(同じ姓)に属するということは、家族以上に深く特別な関係で、強いつながりをあらわすものなのです。

 モンの人が、”タイ、ラオス、ベトナム、中国など(モン族の人たちの居住地域)を旅するのであれば、食費も宿泊費もかからないよ”、と冗談のように話してくれたことがありますが、それは、同じクラン(姓)の人たちが困っていたら、無償で助けてあげる、泊まるところがないといえば家のひと部屋を提供し、食べるものがないというのであれば、お腹いっぱい食べさせてあげるのが、モン族の人たちにとって”普通”なことなのだそうです。

 モン族の人たちの数々の伝統儀式は、クランごとに執り行う方法が異なり、それを知ることでも、相手がどのクランに属するのかを知ることができるのだといいます。
 また、立場や関係性によって、相手の呼び名や敬称を変えなければならないモン族の人たちにとって、相手のクランを知ることは、とても重要なことで、初めて会ったときにはまず、相手のクランを尋ねる(推察する)ことが欠かせないのです。

同じ姓の人は好きにならないの!

 そして、まず同じ姓(クラン)かどうかを確認することが大事だという理由のひとつが、同じ姓(クラン)同士は”絶対に”結婚できない(しない)”ということがあります。

 元々は、同じ血縁同士で結婚することを避けるため、という意味合いが大きかったと思われるクラン制度ですが、これだけ国をまたぎ広範囲に生活しているモン(Hmong)族の人たちが、本当の祖先をたどることも難しくなっている現代においても、同じクラン同士では結婚できない(しない)ということが、今の若い世代の間でも、今もなお固く守られていることに少し驚きました。

 モン族の社会は、強い家父長制であり、結婚すると女性は男性の姓(クラン)を名乗り、他の民族の中でも保守的なところありますが、それでも最近の世代では、男性が家事をすることもあったり、女性が常に男性に従わなければならない、ということばかりでもなくなってきているように感じていました。

 そんな今どきのモン族の女性と、モン族の名前についての話になった時のこと。

 ”もし、好きになった人が同じ姓だったらどうするの?”と尋ねると、彼女は笑って、”好きにならない!”というのです。”でも、好きになった人が、後になって同じ姓であることを知ったら?”というと、”そうなることはあり得ない!”というのです。

 本人同士の気持ちとは別に、親や親戚の反対にあい、”結婚できない”というのではなく、本人同士が、”結婚しない”と納得するということのようなのです。

 どんなに好みの人であっても、名前(姓)を聞いた時点で、好きになるようなことは絶対になく、もし、いいなと想っていた人であっても、名前(姓)を知った時点で、そういう気持ちはなくなるのだというのです。

 これは、親から教えられるものでもなく、彼女も親から教えられたわけではないし、自分の子どもたちにも教えたことはないけれども、子どもたちはすでに理解しているのだといいます。

 モン族の姓は、全部で18しかないわけですから、同じ姓の人同士が出逢う確率はとても高いと思うのですが、それでも、今もすべてのモン族の人たちが頑なに守っているモン族の伝統文化のひとつが「クラン(姓)制度」なのです。

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