モン族の民族衣装の行く末

民族衣装

タイ北部チェンマイのモン族市場

モン(Hmong)族の女性の民族衣装の首の後ろ側には、四角や三角、山型などの刺繍とアップリケの小さな布が垂れ下がっています。

これは、モン女性の民族衣装には欠かせないもので、そのサブグループ、国や地域によっても、その模様や形はさまざまですが、その小さな布の中には、モン族の刺繍やアップリケの手しごとの全てが結集されており、刺繍だけでも何通りもの技法が使われ、細かなアップリケの上にも刺繍がほどこされ、その緻密な文様にため息がでます。

世界中にコレクターがいるほどのモンの襟飾りですが、タイやラオスの観光地などでは、こうした古布をつかったポーチやバッグ、洋服などが売られていたりします。

タイ北部のチェンマイやラオス北部のルアンプラバーンなどの観光地では、山岳(少数)民族の衣装をリメイクした商品がたくさんみられますが、特にチェンマイには「モン族市場」と呼ばれるエリアがあり、そこにはモン族の民族衣装のプリーツスカートや、ベルトや襟の刺繍布、刺繍のアップリケなどが山積みされています。

売られているのは、民族衣装そのままだったり、民族衣装の腕や首元にほどこす丸い刺繍のワッペン部分だけ切り取ったりしたものが所狭しと積み上げられているのです。

古い民族衣装に対する気持ちの違い

私は、もともと古布が好きで、モン族の手しごととの出会いも襟飾りでしたが、これだけ手のこんだ布を切ったり縫ったりして新しい商品にするということが、なんだか可哀想な気がしてしまい、実は、民族衣装の古布のリメイク商品があまり好きではなかったのです。それは、もともと民族衣装の襟飾りとして作られたもので、その多くが家族のために一針一針、大事に作られたものだったりするからです。

でも、モンの人たちと過ごしているうちに、その考えも、今は少し変わってきました。

それは、私たちにとっては、とても貴重に思える手のこんだ襟飾りも、モン族の人たちにとっては、本来は、毎年、新しく作り替えていくもの(作り替えていきたいもの)であり、新しい年には新しいものを身につける、ということが大切なことだったり、古いものを身につけているのは縁起が悪いとされていることを知ったからです。

そうであれば、古い襟飾りを買い取ってもらえれば、それで新しい布と糸を買い、また新たな襟飾りを作ることができ、それはそれで、商売をする人とモン族の人たちの思惑が一致していることのなのかもしれません。
それでもやはり、貴重な手しごとの歴史が、どんどん消えていってしまうようで悲しい気がしてしまうのですが…。

『織り人』の刺繍とアップリケについて

『織り人(Orijin)』で作る製品には、基本的には古布は使っておりません。
それは、縫製だけでなく、刺繍やアップリケを作ってもらうことも、つくり手さんたちの仕事になるように、と考えているからです。

そのため、こうした古布をつかった製品の取り扱いは少ないのですが、一部、オンラインショップでご紹介していることがあります。それは、モンの古布を使ったリメイク商品を作っているのが、モン族の若者たちであったりすることが増えてきたからです。

昔、民族衣装のリメイク商品が流行った頃は、タイ人の業者がモンの村に行き、ただ同然の値段で民族衣装を買い取ったりしていたことが問題になったりもしましたが、最近では、モン族出身の若者たちが、自らの文化に誇りをもって、仕事として取り組んでいるという話も耳にするようになってきました。
それは、モン族であるということがタイ社会の中でマイナスなことではなく、こんなに素敵な、魅力的なものがモンの文化の一つなのだということが、タイ人や若者の間で認められるようになってきたという社会的背景があると思われます。

また、実のところ、最近の民族衣装は、機械刺繍のものも増えており、ミシンで作られた刺繍のワッペンを縫い付けただけものだったりすることも多いですし、店頭に並ぶ「古布」と呼ばれているものも、実際はそれほど古いものではなく、大量に同じものを製造できる既製品に近いものも多くなっています。

麻を育てることから始め、麻布を織り藍に染めて、刺繍をして…、1着の民族衣装を何年もかけて作り上げるということも、ほとんどなくなってしまった今、民族衣装といっても、「古布」というよりは「古布風」のものばかりになってきたことも、リメイク商品を作りやすくしているのかもしれません。

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