ベトナム黒モン族の”ぴかぴかの服”

モン(Hmong)族

 先日、谷中にある「the ETHNORTH GALLERY」さんで開催されていた苗(ミャオ)族の展示会を見に行ってきました。

 その展示会は、美術を専攻している学生さんが、貴州省の苗族の人たちが作る”ぴかぴかの布”「亮布(リャンプー)」をつかって新しいデザインの衣装をつくり、その村の方たちに着ていただいて、村の生活風景とともに撮影した写真集の発売を記念したものでした。

 国際協力や農村開発などの方面から、苗族やモン(Hmong)族の文化に関心を持ったという人も多いかもしれませんが、美術専攻で服飾を学んだ方の視点ということに、私は興味をひかれました。
 特に、ここ最近、苗族やモン族の民族衣装を研究対象とした本の出版が増えているように思います。
*下記、参考書籍でご紹介。

 タイやラオス、ベトナムのモン族に関心を持つようになって久しく、そのモン族の人たちの原点は中国南部の苗族にある、といわれていますが、自分自身の関心は、ラオス難民として祖国を追われなければならなかったモン族の歴史にあり、その起源としての中国の苗族とは、また別の文化的、歴史的背景であるように感じていました。

 でも、ラオス難民としてタイへ逃れてきた、あるモンのおかあさんと一緒に、初めてのラオスへの里帰りに同行させてもらった時に、タイやラオスといった国の違いではなく、同じモン族だということで、言葉はもちろんですが、モン族という文化や歴史がつながっていることを目の当たりにした時に、タイやラオスのモン族だけでなく、中国のモン族(苗族)までつながっているところを、この目で見たいと思うようになったのです。

 今は中国の苗族(モン族)の歴史や文化についても、勉強しているところです。

 国をまたいでつながるモン(Hmong)族の話については別の機会として、今日は、中国の苗族の人たちと同じ”ぴかぴかの布”をまとうベトナムの黒モン族の人たちのお話を少し。

ベトナム黒モン族のてかてかの服

 この展示会を開催した彼女が虜になった中国の苗族の「亮布(リャンプー)」と呼ばれる布は、苗族の民族衣装につかわれている赤紫の”てかてかの布””のことで、藍染めの布に牛のにかわや卵白を塗り、たたいて光沢を出したもので、国や地域によっては、牛や豚の血を直接塗りつけることもあると聞きます。

 こうした”ぴかぴかの布”を、私が初めて実際に見たのは、ベトナム北部の黒モン族の村でのことでした。週末の町の市場に集まってきている人たちはみな、一張羅である”ぴかぴかの衣装”を着ていました。

 最近では、山奥からでも、最寄りの町までのアクセスがよくなってきているところも多くなりましたが、それでも、村から町へ出かける時は、たくさんに人に会うので、一番いい服を着て出かけます。黒モン(Hmong)の人たちにとって、このぴかぴか光る衣装は、一番のおしゃれ着なのです。

 床屋の順番を待つ子たち(写真1枚目)も、お店のテレビを外からのぞき込む人たち(写真2枚目)も、一張羅のぴかぴかに光らせた布の民族衣装を着ています。

ベトナム北部の黒モン(Hmong)族のぴかぴかの衣装

 ベトナム北部の黒モン族の人たちの場合、卵白や血を塗りつけてテカリを出すのではなく、藍に染め上げた麻布の表面を専用の木の台の上で擦ることでテカリを出していくのです。

 上の写真は、その様子を再現してもらった時のものなので、木の台にのせているのは、すでに民族衣装として仕上がっている刺繍済みの上着です。通常は、手織りした一枚の布を、何度も何度も藍に染め、黒に近い濃紺に染まったあと、木でこすり合わせてぴかぴかに光沢をだして、それから衣装に仕立て、袖や襟元などに刺繍をほどこしていきます。

 その時私は、ベトナム北部の曜日ごとに異なる村で開かれる村の市場を追っかけるようにまわっていました。

 明日は、違う村で市場が開かれるというのに、夕方、その村へ向かうバスはもうない、といわれ、どうしようかと考えていると、藍染めの”ぴかぴかの衣装”をまとったバイクのお兄さんが、乗せていってあげるよ!というのです。小雨も降り出していたので、一瞬迷ったのですが、モンの市場の魅力には勝てず、そのバイクの後ろに乗り、次の村へ向かいました。

 しっかりとつかまっているように!といわれ、村に到着した時には、白いウィンドブレーカーが藍色に染まってしまっていたのでした…。

参考書籍はこちら

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