〈すわる〉を旅する-アジアとアフリカの、あの坐り方と低い腰かけ

いろいろな話

 三軒茶屋の世田谷文化生活情報センター「生活工房ギャラリー」で開催されていた展示会『〈すわる〉を旅する-アジアやアフリカの、あの坐り方と低い腰かけ』(2019.11.16~12.8まで)を観に行ってきました。

 井上耕一氏による「すわる」だけをテーマに、アジアとアフリカでのフィールドワークで撮影された写真と現地で収集した腰かけの展示がされていました。

 井上氏が”あの坐り方”と名付けたのは、”西洋的な高い椅子を必要とせず、両足の裏を地面につけたまま腰を下ろし、両膝を立ててしゃがんだ姿勢であらゆる行動(くつろぐ、食事をする、料理をする、ものづくりをする、舟をこぐ、勉強をする・・・)をとることで、それは、私もいつも見ている光景のことでした。

 アジアやアフリカの村にいると、あまりに見慣れた風景で、さらっと見過ごしてしまっていたもので、食事の時やちょっと一服の時、人やバスを待つ時やちょっと雑談する時に、足の裏をぺたっとつけてしゃがみ込む姿勢(あの坐り方)は、本当に日常のことです。

 さらに、”低い腰かけ”は、”あの坐り方”を長時間維持するために必要不可欠なもので、手しごとの場には欠かせないものです。

 私もこれまでに、”あの坐り方”の写真をたくさん撮っているなぁと思い、これまでの写真から探してみると、”それらしい写真”はたくさんあったのですが、私の場合、座っていることへの興味よりも何かを作っていることへの興味の方が勝ってしまっており、撮っているのは”尻元”?よりも”手元”の写真ばかりでした…。

 日常であった”あの坐り方”と”低い腰かけ”は、高いテーブルと椅子の出現により非日常になり、モン(Hmong)の村では、まだかろうじて日常的な風景といえる「低い腰かけと手しごとの風景」も、年々姿を消しつつあります…。

 普通の椅子(背の高い椅子)に座り慣れている私たちにとっては、この低い腰かけに座ることは、あまり快適といえるものではないかもしれません。
でも、日本人もかつては、”あの坐り方”の達人だったと思うのです。

 たき火を囲んで団らんしたり、くつろいだり…、”あの坐り方”と共にあった文化の中には、異なる座り方をするようになったことで、消えていったものも多いのだと思います。

 モンの村も、家の軒先での刺繍やアップリケの手しごと風景、たき火で暖をとる風景は、どんな風に変わっていくのでしょうか…。

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