移動する人々~多様性から考える

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 今年2019年3月発行の「移動する人々~多様性から考える(晃洋書房)」の中で、ラオスから難民としてフランスへ渡ったモン(Hmong)の人たちが農民として定着していく事例があげられている。

 他者による支配を嫌い、中国南部からラオスへ南下してきたモン族の人たちは、ラオス内戦に巻き込まれ難民となり、一部の人たちはフランスへ移住することとなった。
 ラオスから逃れてきたモンの人たちは、1978年から1979年にかけて、タイの難民キャンプへ集められ、1980年代末にかけて、第三国定住としてアメリカ(10万人以上)やフランス(約1万人以上)、カナダ、オーストラリアなどに渡っていった。

 フランスへ定住することになったモンの人たちは、初めの数ヶ月を難民センターで過ごし、その後、フランス各地へ移動していくことになるが、モンにとって流れ作業でテンポよくこなしていかなくてはならない、時間厳守の工場労働などは大きな苦痛であり、奴隷のようだと感じていた。

 モンにとって、「移動」を動機づけているのは、”支配から逃れようとする意志であり、自由と独立を求めようとする精神”である。
平等主義的な社会を好むモンらしく、工場労働の命令、服従関係を嫌い、フランス南部ニーム周辺の耕作放棄地で、より自由に、筆者のいうところの「自分自身の主人」として働く農民となったモンの人たちが多くいたという。

 フランスのどこの地域でもよかったわけではなく、ニーム周辺が共同組合による農民支配地域ではなく、青果市場で、生産者自身(売り手)の手で、仲買業者や卸売業者(買い手)と平等に値段交渉していくことができ、「自分自身の主人」となれる地域であったことが、フランス南部のニーム周辺にモン農民が増えた一番の理由だという。

 フランス人農民も自由と独立を重視し、国家の統治に対する反発という点で、その価値意識はモンの価値意識ととても似ているために、モンはフランス南部の農業にうまく適応することができたとしている。
「移民や難民の生き方と定住する人々の生き方との違い」や「移民と国民の差異」を強調するのではなく、「国家との関係性」という類似した点からのアプローチを提示することができるのではないかとしている。

 この章の筆者(中川理氏)は、フランス南部の農民とフランス南部へ移住したモン農民とは、国家に対する「うまく統合されてなさ具合」で両者が驚くほど「似ている」としている。

 ”移民は、つねに国民に対する対立概念としてとらえられてきた。しかし、私たちは多かれ少なかれ移民なのではないだろうか。多かれ少なかれ国家に対して「しっくりこない思い」を抱えて生きているのではないだろうか”と。

 モンの人たちが、フランス全土へうまく適応できたわけではなく、フランスへ渡ったモンの人たちがすべてフランス南部の農民となったわけではない。

 モンの人たちがフランス全土ににうまく馴染めたわけではなく、フランス南部の一部の地域にうまく適応していきつつある人たちがいるということであるが、それは、”国家との関係性”によるものだという考えは、これから先、難民や一時滞在の労働者をさらに受け入れていかなくてはならない日本に、何かヒントを与えてくれるものではないだろうか。

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