カレン族の伝統文化の継承をめざす村

カレン(Karen)族

タイ北西部のポー・カレンの村

以前、都市部の街で開かれていた布のイベントで、草木染め布などを出品していた方々のお話を聞いていると、とても興味深い村だったので、しばらくしてから、村の様子を見せてもらいにうかがいました。
その村は、タイ北西部のミャンマー(ビルマ)国境沿いのポー・カレンの人たちの村です。

その村の代表の方は、地域のラジオ局を立ち上げ、ご自身自らDJをしていたり、村の中に、カレン族の文化を学べるよう伝統的な民家を建てたり、カレン族の手しごとを体験ができるようなセミナーを開催したり、カレン族の伝統文化、特に、腰機の織りや草木染めなどを復活し広く知ってもらうために、村の若い人たちや外部の人までも巻き込んで、さまざまなことに取り組んでいました。

村の人も外部の人も巻き込み村おこし

私が村に到着した時、その方は不在にしていたのですが、中学生くらいの男の子が、村の中を解説付きで上手にくまなく案内してくれました。その村を訪れた外部の人たちに、村の魅力を知ってもらえるよう、しっかりと研修しているよう様子がうかがえました。

これまでに、村にコミュニティー図書館を作ったり、女性たちが織り上げた布を使ったバッグや洋服などの製品を販売したり、男性たちには、地元の木材を使って食器やカウベル(牛の首に取り付ける鈴)を作ったり、さまざまな取り組みをしています。

そうした活動が今では、タイのテレビで紹介されるようになったり、ちょっとした有名な村になり、学校や地域でも、その村で研修をしたいという人たちがたくさん訪れるようになっているようです。

若い世代も取り込み伝統の織りの復活

その案内役の子は、草木染めをおこなう場所に連れて行ってくれたり、木の実を集め染液を作る様子を解説してくれたり、本当によく学んで、村のために、村の魅力を伝えるために、村全体を案内してくれました。

村をまわっていると、カレン伝統の高床式の家の軒下で機織りをする女性たちの姿をよくみかけました。その中には、草木染めの糸で織っている人と、化学染料で染められた市販の糸で織っている人とがいるようでした。

草木染めの仕上がりは淡い色合いで、徐々に色もあせていきます。それが草木染めの味なのですが、実際のところ、多くの民族の人たちにとっては、鮮やかな色合いを好む人も多く、また、日常使いには、化学染料で染めた布のように安価で、毎日洗っても褪せないような布の方が好まれることも多いのです。

こちらの女性が織っているのは、その村で取り組んでいるワンポイントの織り文様の入った草木染め布で、軒下に竹をぶら下げ、そこに経(たて)糸を輪にしてかけ、足を突っ張らせるために、柱と柱の間にさらに竹を横にわたらせ、木の板を何枚も置き、経糸のつっぱり具合を調整していきます。

平織の途中に文様を織り込んでいくのは、この村独自のオリジナルデザインで、この草木染め布は主に販売用に作られているようでした。草木染め布は手間がかかり高価になりますので、化学染料のものは自家用に草木染めの布は販売ようにと分けているようでした。

民族文化を継承するためには

その後も、タイ国内各地の布イベントによく出店されており、村の女性たち、特に若い世代にカレン民族伝統の織りの技術を継承しつつ、しっかりと収入を得られるような仕組みづくりに取り組んでいる様子に、とても学ぶことが多くありました。

タイの山岳(少数)民族の村などでは、すでに伝統文化は廃れてしまい、機織りや刺繍など手しごとをする日常の風景もみられなくなったところも多くなってきていますが、その逆に、消失しつつある民族文化を復活させ、継承していこうとする動きも各地で起こっています。

しかしながら、伝統文化の復活、手しごとの継承といっても、それは容易なことではなく、ただただモノを作って売ればよいかというと、そんな簡単な話ではないのです。多くの人たちいろんなことに取り組んできていますが、それが本当に次の世代まで続いていくという例は、実はわずかだったりするのです。

そんな中、この村の様子をみていると、オリジナルの布をデザインし差別化し、純粋な草木染めをおこなうことで付加価値を高め製品の価値をあげ、国内外での販売に力を入れ販路を築き、そして何より、子どもたちが機織りをしている母親のそばで遊ぶ”日常”を取り戻したことが大きな成功の秘訣なのだと思います。

民族文化を継承していくために必要なことは、新しい取り組みが”日常”になることなのだと感じています。

参考書籍はこちら

*Amazon詳細ページへリンクします。