「ザ・ディスプレイスト」の難民作家とオリパラ難民選手団の選手

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 今年2019年2月、「ザ・ディスプレイスト 難民作家18人の自分と家族の物語」という本が発行されました。

*“「Dis・place」とは、(家や国から)強制退去させる、追放する、無理に立ち退かせる、故郷故国を失う、という意味。「The displaced」難民・流民(本書から引用)”

 この本の中には、アフガニスタンやエチオピア、ヴェトナムなどから、難民としてアメリカやカナダなどの第3国へ定住した人たち18人の物語が集められています。

 その中の最後に、タイの難民キャンプからアメリカへ渡ったモン族の物語もあります。

 この本で紹介されている18人は、幼い頃に自分の国を追われながらも、最後にたどり着いた新たな地で、「自分たちの物語」を描くことで、作家として、自分の存在意義を見出した人たちです。

 「難民」という肩書ではなく、「作家」という肩書を得たことで見える、難民自身のそれぞれの「物語」を通して、“難民とは”“難民として生きるということはどういうことなのか”、ということを我々に問いかける、これまでにない試みの本だと思います。

 今年の6月20日「世界難民の日」に、国際オリンピック委員会(IOC)は、前回大会の初めての「難民選手団」参加に続き、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会でも、難民選手団の参加を表明しました。東京大会では、37選手が8種目の競技に参加する予定になっています。

IOC announces list of Refugee Athlete Scholarship-Holders aiming to be part of IOC Refugee Olympic Team Tokyo 2020 - Olympic News
The International Olympic Committee (IOC) today released the list of Refugee Athlete Scholarship-Holders who are aiming to be part of the IOC Refugee Olympic Te...

 この本の作家さんたち、オリンピックの難民選手団に選ばれた人たちの多くは、小さい頃に、親や親戚と共に、命からがら母国を逃れ、第3国へ定住し、その親たちは、言葉の問題や文化の違いで、なかなか馴染めず孤立してしまうことが多い中、彼ら世代は、案外すんなりと新しい環境に馴染めた世代でもあったかもしれません。

 幼い頃に難民になった人たちの中には、新しい場所で、作家として、スポーツ選手として、自らの才能をいかして成功を成し遂げた人たちもたくさんでてきました。

 幼かった彼らは、難民としての逃避行の日々を、皆、覚えていないといいます。それでも多くが、親から当時の話を聞きながら育ち、大人になってから、“難民とは何か”、なぜ自分は難民であったのか、そして、自分は何者なのか…、そうした疑問や心の葛藤と向き合いながら生きていくことになるのです。

 この本の中のヴェトナム難民作家のヴ・トラン氏の物語は、“若いとき、ぼくは自分が難民だとは考えたことがなかった。ぼくの心のなかでは、自分は移民だった。”という一節で始まります。

 「難民」が「移民」と異なるのは、自ら望んだことではなく、難民自身も、そしてまわりも、“弱く劣っているよそ者”というマイナスなイメージを持っていることであり、それが、すんなりと新しい環境に馴染み、あらゆる面で成功したように見える難民だった本人たちをも、長く苦しめることになるのです。

 難民であることを、難民であったことを、語り継ぐことだけでなく、作家やスポーツ選手、そして、『織り人(Orijin)』の刺繍やアップリケのつくり手さんたちのように、自分たちの才能や得意なことで、まわりから認められるようになるということは、彼らが難民だった人生を否定せずに生きていくために、とても大切なことで重要な意味があると思っています。

 『織り人』では、ラオス難民であったモン族の家族を中心に、オリジナル製品づくりに取り組んでいます。

 モン族の村では、難民だった頃のことを話したがらない人や、モン族であるということを隠すように、子どもたちにはモン語ではなくタイ語だけを使うようにさせている人もいます。

 難民であった民族出身の人たちが、自分たちの伝統である手しごとの技術をいかし、日本で認めてもらえるような製品をつくることで、自らの民族文化に誇りを持ち、モン族として自信をもって生きていけることを望んでいます。

【37選手の受入国】
オーストラリア、ベルギー、ブラジル、ドイツ、イスラエル、ヨルダン、ケニア、ルクセンブルグ、ポルトガル、オランダ、トルコ、イギリスの12か国
【37選手の出身国】
アフガニスタン、カメルーン、コンゴ、エリトリア、エチオピア、イラン、南スーダン、スーダン、シリア
【37選手の参加種目】
陸上、バドミントン、ボクシング、柔道、空手、水泳、テコンドー、ウェイトリフティング
【オリンピック・パラリンピックにおける難民選手とは】
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が認定する難民であり、特定のスポーツにおいて一定の能力を有し、IOCにそう認められた選手のことを指す。
2015年10月、トーマス・バッハIOC会長が国連総会において、2016年のリオデジャネイロ大会に初めて参加する難民選手団の創設を宣言。
同オリンピック大会にはシリア、南スーダン、エチオピア、コンゴ出身の難民選手10名が、同パラリンピック大会には難民選手2名が参加した。
(東京2020公式ホームページより抜粋)

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