難民キャンプで作られていたライフシーン刺繍

ライフシーン刺繍

ライフシーン刺繍とは

 モン(Hmong)族の人たちの刺繍の中には、畑仕事をしている様子や家畜にエサをやる様子など、モンの村での生活のワンシーンやモンの民話などを刺繍で描いたものがあり、それは「ライフシーン(LifeScene)刺繍」と呼ばれている。

 その中でも特に、タイの難民キャンプの中で作られていたライフシーン刺繍の図柄は、モン(Hmong)族の移動の歴史や戦乱に巻き込まれたつらい歴史を描いているものが多く、モン族を象徴するものとして、タペストリーなどに仕立てられ、アメリカやヨーロッパなどでよく売れていたという。

 モン(Hmong)の人たちが、森や山の洞窟に逃げ込み、ひっそりと身をひそめながらも、畑で作物を栽培し、食事を作ったりといった“日常”を送っていた様子や、竹の筏や浮き輪でメコン川を渡って命からがらタイへ逃げ込む様子が描かれていたり、空から兵士がパラシュートで降りてきて村人を拷問したり、戦闘機で爆撃し、村を焼き尽くす様子など、色あざやかな一見かわいらしい刺繍には似合わないセンセーショナルな図柄が中心であった。

かわいらしい色合いの刺繍とは対照的にセンセーショナルな図柄のライフシーン刺繍

文字の代わりに刺繍で次世代へ伝える

 もともと文字をもたなかったモン(Hmong)の人たちは、民族の言い伝えや民話など、得意な刺繍であわらし、次の世代へと継承していったといわれている。

 難民キャンプで作られていた図柄についても、確かにモン(Hmong)の歴史の一部をあらわし、次世代へ伝えるという意味合いもあったかもしれないが、それ以上に、“商品”として、先進諸国の人たちに、より興味、関心を持ってもらい、自分たちが直面している問題を世界中の人たちに訴えかけるために、よりセンセーショナルな図柄である必要があったのではないか。

 ライフシーン刺繍の下絵は、シルクスクリーンで同じ図柄が一気に印刷されていたが、下絵を描き印刷する作業は男性の仕事で、女性は刺繍を担当していた。
かなり衝撃的な場面も描かれている中、モン(Hmong)の女性たちは、何を想い刺繍をしていたのだろうか…。

ライフシーン刺繍の下絵は、一気に刷られていたので、同じ図柄のものも多い。

刺繍途中の状態。ライフシーン刺繍はむずかしく、誰でもがきれいにできるわけではないという。

 初めてモン(Hmong)のライフシーン刺繍を見た人の多くは、カラフルで明るい刺繍と衝撃的な図柄の印象とのギャップに違和感を覚える。

 刺繍でつかわれる色合いは、かなりあざやかで明るくかわいらしいものが多いのだが、つらく悲しい図柄だからこそ、あえて、色あざやかな色をもちい、少しでも夢のある世界のように描きたかったのではないだろうか。

ラオスから竹の筏や浮き輪をつかってメコン川を渡り対岸のタイの難民キャンプへ向かう様子

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