ライフシーン刺繍の図柄と同じ人生を歩んだ人々

ライフシーン刺繍

モン(Hmong)族のライフシーン刺繍の図柄

難民キャンプの中で作られていたライフシーン刺繍の図柄は、モン(Hmong)の人たちが森や山の洞窟に逃げ込み、ひっそりと身をひそめながら暮らしている様子や、竹の筏や浮き輪でメコン川を渡って命からがらタイへ逃げ込む様子が描かれていたり、その内容の多くは、“しあわせ”を描いたものではなかった。

それは、そういうセンセーショナルな図柄の方が、難民としてのモン(Hmong)族を象徴するものとして、欧米では人気が高かったからである。

森に隠れながら生活している様子、筏や浮き輪でメコン川を渡る様子を描いたモン(Hmong)族のライフシーン刺繍

あるモン(Hmong)家族の物語

あるモン(Hmong)の女性は、母親と幼い娘、両親を失った親戚の子ども2人を連れて、5、6人乗ればいっぱいの小さな筏に乗り、メコン川を渡ってタイへきたという。
その筏にのせてもらう費用は、モン(Hmong)の女性が大事している銀の首飾り2つ分だったという。

昔、現金が入るとすぐに銀の飾りに替え、首飾りにして肌身離さず身に付けていた。
モン(Hmong)の女性の銀の首飾りは、ある意味それが最後の財産であった。
その銀の首飾りをブローカーに渡し、夜になるまで川沿いの草陰に身を潜めていた時の不安は計り知れない…。

まさに難民キャンプで作られていたライフシーン刺繍の図柄と同じ人生を生きてきた人たちが、今、目の前にいる。
でも、私自身はそれを経験していない。
ライフシーン刺繍から知る彼らの人生は、ライフシーン刺繍から出てきた”物語”のような錯覚に陥ってしまう。

彼女たち自身も、村を焼かれ、兵士に襲われる様子など、自分や親きょうだい、友人が体験してきたことではあっても、それは忘れてしまいたい出来事であり、なんとなく他人事のような想いで刺繍に残してきたのではないだろうか。
大好きな刺繍であっても、それはやはり、楽しいことではなかったのではないかと思う。

モン(Hmong)の未来を描いたライフシーン刺繍

以前、ライフシーン刺繍のオリジナルの新しい図柄を考えられないだろうかと、話をしていたことがある。(1枚目のトップ写真)

これまでは、大国に追われ、戦争に巻き込まれ、悲しい物語ばかりが描かれてきたけれども、今は違う。
それぞれが、新しい場所で、新しい人生を歩んでいるのだ、と彼女たちは言った。

難民キャンプで下絵を描いていた男性のほとんどは、今は下絵を描ける人がいないということで、その計画はその後、進展していないのだが、今を頑張って生きているモン(Hmong)の人たちの”いまの物語”と明るい未来を描いた“つづきの物語”を、ぜひ描いてみたいと思っている。

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