難民キャンプでのモン族の手しごとの意味

難民キャンプ

未来を見過ぎないことも大切

 
 この夏、米国企業SpaceX社の民間宇宙船への搭乗を予定している野口聡一さんが、あるテレビ番組で、このコロナ時代の厳しい環境を生き抜く術について、私たちにメッセージを送ってくれていた。

 その中で、なるほど、と思ったのが、宇宙飛行士の訓練の中に、密林などでの訓練があるというお話。
 それは、「NOLS(野外リーダーシップ)訓練」というもので、10名程度でグループになり、毎日リーダーを変えながら、雪崩の危険のある雪山や、熊が目撃される密林、干満差の激しい海岸などの過酷な環境でのサバイバルを通して、お互いの信頼感やリーダーとしての資質を高めていくものだという。
 「リーダーシップ」や「チームワーク」というものは、普通に生活しているだけでは身につかないもので、過酷な状況下にあえて置くことで、人間の最大限の能力を引き出すということである。

 そうした厳しい環境や行動が制限される状況においてこそ、そこに人間の本質があらわれる。
 野口さんは、そうした究極な状況下や今のコロナ禍のような中では、先を見ない、未来を見過ぎないこともポイントだとおっしゃっていた。
 今、目の前にある難題を一つひとつ解決していく、すぐ先の現実に向けて進んでいく、それが過酷な状況の中で、精神を保つために必要なことだということである。

 宇宙飛行士になるには、脱出不可能なあの限られた狭い空間で、他人と長期間過ごすことができる精神力と共感力が何よりも必要で、知識や技術的なことを身に付ける以上に重要で不可欠な要素なのだと痛感する。

未来の見えない難民キャンプの生活を支えた刺繍

 “限られた空間“、”制限のある生活“といった時、私はいつも難民キャンプにいる(いた)人たちのことを考える。1970年代、タイの難民キャンプに収容されていたモン(Hmong)族の人たちは、先の見えない生活を乗り切るために、刺繍やアップリケをしていた。

 刺繍やアップリケは、モン(Hmong)族の伝統であり、生活に欠かせないものであったといわれるが、難民キャンプの生活では、それとはまた違った意味があり、生きていくための道具だったのではないだろうか。

 いつここから出られるのか、これから先どこで生きていくのだろうか、出られたとして普通の生活が送れるようになるのだろうか…、考えれば考えるほど心配は尽きない…。
 そんな生活の中で、こつこつ、こつこつと刺繍やアップリケなどの手しごとをすることで、先の見えない不安な生活を乗り切ることができたのだろう。

 夢を持とう!未来を想像しよう!と、平時の時はそうしたことも必要ではあるが、今のような状況では、明るい未来を想像することよりも、今、目の前にあるものを見て、今できることを、いつものように続けていく…、そういうことが心の安定をもたらしてくれるものなのかもしれない。

*掲載した写真は、難民キャンプでのものではなく、ラオスのモン(Hmong)族再定住の村で撮影したものです。

*「NOLS訓練」については、宇宙航空研究開発機構(JAXA)ホームページを参照しました。