ミェン族の人たちの歴史と文化、刺繍の技術

ミエン(Mien)族

焼畑を繰り返し、内戦を乗り越えてきたミェン族の歴史と文化

 ミェン族の人たちは、中国南部の四川省、湖南省、貴州省などを起源とし、漢民族の圧政などにより、雲南省やベトナム、ラオス、ミャンマー(ビルマ)などへ移動しながら、1920年代頃から一部の人たちが、タイ北部の山岳地域に移住をはじめたと考えられています。

*ミェン族の人たちは、世界的にはヤオ族と呼ばれることが多く、日本で出版されている本の多くでは”ヤオ族”が使われていますが、タイ国内では”ミェン”(ヤオ・ミェン語で”人”という意味)と呼ばれ、自らも”ミェン”をつかっていることから、『織り人(Orijin)』では、基本的には”ミェン族”を使います。

 現在の居住域は、中国南部からベトナム北部、ラオス、タイ北部など東南アジア大陸部の山岳地の広い範囲にわたっています。
*タイ国内では、チェンマイ県、チェンライ県、パヤオ県、ナーン県に多く居住しています。

 それはミェン族の人たちの、栽培焼畑農業(米・とうもろこしなど)を中心とした生活様式によるものが大きいと考えられているが、それだけではなく、疾病や内戦を避けるという緊急事態に対処する移住(「流動する民族」平凡社参照)も大きな要因と考えられます。

 氏族間の闘争、インドシナ戦争に翻弄され、移住を繰り返してきたモン(Hmong)族の歴史については、日本語で書かれた書籍もいくつかあり、ご存知の方も多いかもしれませんが、ミェン族の人たちもモン族と同じように戦乱に巻き込まれ、タイ-ラオス国境の難民キャンプでの生活を強いられていた人も少なくありませんでした。

 中国南部を起源とするため、中国文化や道教の影響を強く受け、長い間、中国との関係を保ちながらも、まわりの険しい山々に囲まれた環境が、近隣の他の民族や中国からも隔絶した環境をつくり、民族独自の衣装や習慣、言語、文化を確立してきました。

 ミェン族の人たちの言葉は、中国語とはまったく異なる言語で、モン族など多くの少数(山岳)民族と同じように、もともとは自分たちの文字を持っていませんでした。

 1984年以降、ミェン族の文字が使われるようになりましたが(「ヤオ族の刺しゅう」参照)、それほど普及せず、漢字が使われることも多く、特に、男性の間では、漢字によって伝統文化(婚儀や葬儀などの儀礼についてなど)が書き記され、漢字文化は、息子たちへ受け継がれていきました。今でも、家の入口や室内の柱などに、漢字で文字が書かれていたり、漢字のお札が貼られていることがあります。

 しかしながら、文字を学ぶことができたのは”男性”だけであり、女性たちは、文字の代わりに、刺繍文様に意味をもたせ、伝統的な衣装や刺繍の文様を娘たちへと伝えていきました。ミェン族にとって、中国語の読み書きは”洗練された男性”であるかどうか、刺繍の技術は”よき女性”であるかを証明するものだと考えられていました。

ミェン族女性が大切に受け継いできた民族衣装と刺繍

 ミェン族の女性の民族衣装は、赤い大きな毛糸の襟のついた濃紺の上着に、細かな刺繍で埋め尽くされたズボンをはき、頭には大きな頭巾を巻いているのが特徴です。

 そうした衣装の刺繍技術の巧みさや美しさが、よき女性として認められる基準の一つであったため、祖母から母へ、母から娘へ、代々小さい時から、刺繍の刺し方を学んでいきました。

 『織り人(Orijin)』で扱っているミェン族の製品は、タイ北部のミェン族出身の女性が作っているもので、その方が近隣のミェン族の村々で作られた刺繍布を買い取り、自分で製品に仕立て販売しています。

 そのミェン族の村を訪ねた時、ちょうど一人のミェン族の女性が、自分が刺した一枚の刺繍布を売りにきたところに出逢いました。刺繍布一枚からでも買い取りをしてくれるという噂を聞きつけ、遠くの村々からも山を越えて売りにくる人たちもいるのです。

 ミェン族の人たちは、中国の影響を受けているからか、商才に長けた人が多く、チェンライのナイトマーケットでお店を出している人はミェン族出身の人が多いらしく(「さくらプロジェクト」のブログ参照)、『織り人(Orijin)』プロジェクトをおこなっているいくつかの山岳(少数)民族の人たちが集まった村の中でも、お店を開いている人や、家々をまわって野菜や肉を売りに来る人は、ミェン族の人たちが多いようです。

 ミェン族の刺繍の取りまとめをしているこの女性も、今(2018年現在)は、食品や雑貨を扱う商店も経営し、連日、近隣の山岳(少数)民族の人たちで賑わっています。

写真について

ここでご紹介の写真は、当時(2012年撮影)、タイ国内では民族衣装を普段着としている人も少なくなってきていた中、ミェン族の豪華な刺繍のズボンと赤い毛糸の襟を身に付けてこられ、そのズボンの刺繍が素晴らしかったので、自作の刺繍布と一緒に写真を撮らせていただきました。

参考書籍はこちら

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